シングルス、ダブルスともに世界トップ10にランキングされた、数少ないプロテニス選手の一人である杉山愛氏。幼少の頃からテニスを始め、数々の輝かしい戦績を収めてきましたが、25歳の時に引退を考えるほどのスランプに陥りました。その逆境を跳ね返し、どのように夢を勝ち得たのでしょうか。世界のトップクラスの選手と肩を並べて戦ってきた杉山氏の言葉には、ビジネスの上でも役立つヒントが多く隠されています。

大きく絵を描き、目標を設定する

‐ 2014年の秋、テニスの世界4大大会(グランドスラム)の一つ、全米オープンでの錦織圭選手の活躍が大きく報じられたことは、記憶に新しいところです。これまで、特に日本人の男性選手にとって、全豪、全仏、全英、全米という4大大会で結果を残すのは、とても難しいといわれてきました。そんな中で、錦織選手が世界の強豪選手に打ち勝ち、決勝にまで進出しました。

画像: 大きく絵を描き、目標を設定する

「日本人でも世界のトップ選手と対等に戦えるんだ」と、私たちテニスに関わる者にとって大変大きな希望になりました。これまでテニスを観たことがなかった方々が、テニスに興味や関心を持ってくださるよい機会にもなりましたね。日本中に希望を与えた素晴らしいことだと喜んでいます。

‐ 杉山さん自身、中学生の頃から世界の舞台で戦ってこられ、途中、スランプも乗り越え、世界のトップ10にランクインなさいました。世界で戦うために、考えるべきことは何でしょうか?

それは自分がどこをベースに戦い、何を成し遂げたいのか、目標を明確にすることだと考えます。目標がなければ、実現への道筋が描けないからです。私の場合は、4歳でテニスを始め、小学校に入った頃には、すでに「世界で活躍するトッププレーヤーになる」という目標を設定していました。

‐ 幼少の頃から世界を意識され、実践していたというのは、すごいことです。

早い段階で世界に通用するプレーヤーとしての将来を描けたことは、家族をはじめ周りの環境に恵まれていたからでもありますが、その後のテニス人生に、とても大きな働きをしたと思います。
目標を設定する際に肝心なのは、自分の力はだいたいこの程度だろうと、自らの上限をつくってしまわないこと。自分で自分の可能性を小さく狭めてしまわない--。これは、スポーツに限らず、どのジャンル、職業においてもいえるのではないでしょうか。「どれだけビッグピクチャーを描けるか」が、スタート地点での重要なポイントです。
目標が設定できたら、実際に到達するための意識を高めていきます。そうして初めて、世界のスタンダードレベルに達するにはどうしたらいいのか、という具体的な戦略を立てられるのです。

自分の強みと弱みを明確にする

画像: 自分の強みと弱みを明確にする

次に大切なのは自分の力量をしっかりと知ることです。私が海外で試合を経験し始めた中学生の頃、多くの外国人との出会いの中で、日本人のパーソナリティーを実感しました。
日本人の多くは「いえいえ、私なんか」という控え目なメンタリティーを持っていますが、欧米の選手は「我こそは」と自分を主張することが当然という、日本人とは対照的なメンタリティーを持っています。
つまり気の持ち方が全く異なる地点からのスタートなのです。そうした状況でインターナショナルスタンダードを身に付けるには、自分の主張をしっかりとしなくてはいけません。
そのためにも、海外で活躍するのなら、当時ほとんど話せなかった語学力を身に付けなくてはいけないと痛感しました。

‐ 杉山さんは早くから海外に飛び込まれたわけですが、ビジネスの世界においても、特にインターネットに対応した事業を成功させたければ、最初からグローバルな市場に飛び込んだ方がいいといわれています。

もちろん最初からインターナショナルで活躍できる能力が備わっているわけではありません。英語だけでなく、社交の場でのコミュニケーションの仕方であったり、変えていかなければいけないことは数多くありました。それらに気づけたのも、実際に海外に出て自分の肌で感じ取ることができたからです。

‐ ビジネスでもスポーツでも、まずは日本で足場を固めて、次に英語をマスターして世界に出ていこうという考えでは、飛びぬけた成功がしにくい時代になっているのかもしれませんね。それに、英語を身に付けたとしても、控え目な日本人的メンタリティーはなかなか変えられません。しかし、これも克服しなければならないことです。

錦織選手はこの1年大躍進して、発言内容も変わってきました。周りの期待やプレッシャーを一身に受け止める、自分に負けない、やり切るといった己に克つ行動もできるようになっています。スポーツでもビジネスでも、越えなければいけない壁を一つずつクリアしていくことで、より素晴らしいスポーツ選手、ビジネスパーソンになっていけるのだと思います。

‐ 海外選手との体力面での違いをどう乗り越えたのでしょうか。

体の大きさ、技術面でも、海外の選手との差は明確です。特に欧米の選手は、背が高く、体が大きくて、パワーも、スピードもあります。ただし、そうした相手の利点を観察した上で自分の良さを探ってみれば、小柄な体形を生かしたフットワークの良さやスピード、相手のパワーを利用するタイミングなどを計る力など、相手に勝つための要素を備えていることも分かります。また、感情の起伏が激しい欧米の選手に比べ、比較的穏やかな日本人なら、相手の浮き沈みの激しい感情に付け入る隙もあるはずです。
テニスに限らず、勝負の世界は総合力がものを言います。ですから、メンタル、体力、技術など、あらゆる要素を客観視した上で、自分の強みをより伸ばし、自分に足りない部分は補うことが求められます。そうして自分の力量を細かく知れば知るほど、世界を相手に戦う方法も見えてきます。

負け試合が、自己を知る契機に

‐ 自身の力量を客観視するのはとても難しいですよね。杉山さんはどのように?

まず、他者との関わりの中で対比することに努めました。自分が相手よりも優れている部分や、逆に足りない部分がはっきりと見えてくるからです。幸いにも、私たちテニスプレーヤーは、毎週大会があり、様々な選手と対戦することによって、他者との力量の差を測ることができます。言い換えれば、ライバル視している選手との対戦で、自分自身の実力とも向き合わざるを得ないのです。
また、勝負ですから勝つのが望ましいのは、いうまでもありませんが、自分の力量を知るという点においては、勝った時よりも負けた試合の方がむしろとても重要なことを気づかせてくれることがあります。なぜなら、相手に負けることで、自分の欠点や弱点が浮き彫りになるからです。ただし、負けても何も残らない“意味のない負け方”というものもありますから気をつけた方がいいでしょう。

‐ 意味のない負け方とは?

自分の力を発揮できずに負けてしまうことです。もしも自分の力を発揮できたら勝てたかもしれないのに、というモヤモヤだけしか後に残らず、不完全燃焼のまま試合が終わってしまいます。こうした試合をどれだけ経験しても、次の勝負に生かすことはできません。

‐ おっしゃられた「総合力」の中で、メンタル、体力、技術それぞれのつながりなどが乱れて、「あれ? どうしてこんなふうになってしまったんだろう?」と、本来の力を見失ってしまうことは、人間ありますね。

私も、自分で自分が許せない状況に陥ったことはありました。逆に負けたとしても、今日は自分のベストを出し切って、それでも相手のほうが上回っていたなと結果として見えたら、それは次のステップにできます。この要素が足りていないから、この要素を補えば相手に勝てるようになるという自分の伸びしろを、つぶさに知ることができるのです。当然、負けて悔しい気持ちもあります。でも、負けたことで自分の弱みに気づくチャンスを与えてくれたのだと考えれば、私の場合相手への感謝の気持ちを持つことができました。
何か目標を達成しようとする時、よく言われることがあります。「相手との戦いであること以上に、自分自身との戦いである」と。私も、まさにそう思います。まずは、他者との接触によって自分自身を知り、自分自身と戦うことが、試合に臨む際にはとても重要なのです。

画像: 杉山 愛(すぎやま・あい) 氏 プロフィール: 1975年神奈川県出身 4歳の時にテニスを始める。15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位を獲得し、17歳でプロに転向。以後17年間、プロツアーを転戦してきた。 シングルス492勝(優勝6回)、ダブルス566勝(優勝38回)、グランドスラムのダブルス優勝4回。 ダブルスでは世界ランク1位に輝き、オリンピックにも4回出場した。 現在は、スポーツキャスターとして多方面で活躍するほか、ジュニア選手の育成に努めている。

杉山 愛(すぎやま・あい) 氏
プロフィール:
1975年神奈川県出身
4歳の時にテニスを始める。15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位を獲得し、17歳でプロに転向。以後17年間、プロツアーを転戦してきた。
シングルス492勝(優勝6回)、ダブルス566勝(優勝38回)、グランドスラムのダブルス優勝4回。
ダブルスでは世界ランク1位に輝き、オリンピックにも4回出場した。
現在は、スポーツキャスターとして多方面で活躍するほか、ジュニア選手の育成に努めている。

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