「テクノロジーが見えなくなった時がその普及期」。こう述べたのは、世界的なPR会社の社長であるレジス・マッケンナ氏である。今の自動車には、実は見えないところにテクノロジーがふんだんに使われている。ドアウィンドーは、ノブを手で回して開け閉めしなくなった。これはECU(電子制御ユニット)でモーターを動かし窓の開閉を行っているからだ。ハンドルもパワーステアリングが当たり前になった。ここでもECUを通してモーターでハンドルをアシストしている。テクノロジーの究極が「自動運転車」になる。

三つの基本制御機能

クルマの進化は、「走る・曲がる・止まる」という三つの基本制御機能を、より確実により安全に、さらにより低燃費・より低排ガス・より低CO2排出という方向で進んできた。最近はこれらの機能に加えて、歩行者や自転車、対向車など周囲の状況を正確に把握し、より安全に、事故を起こさないための情報システムも搭載されるようになってきた。加えて、快適さの追求もある。
これらの要求に応えるために、クルマにはECUと呼ばれる分散型のコンピューターが多数搭載されている。クルマ1台当たりに搭載されるECUの数は一般に、高級車で50~70個程度、小型車で20~40個程度と言われている。古くは、エンジンの点火の適切なタイミングを決めて、燃費改善と排ガスの抑制を同時に達成するためにECUが使われた。サスペンション制御も古くからある。走行中、急ブレーキをかけると前のめりになりやすくなるのを防ぎ、車体を安定させている。横滑り防止のアンチスキッドや、エアバッグの制御もECUが行っている。ECUは、センサーからの情報をデジタルに変えて、センサー情報の意味を電流や電圧に変える。そのままデジタルデータを、ネットワークを経て、モーターなどのアクチュエーターに伝える、という機能がある。
クルマの進化は電子化の進化と言っても過言ではない。カーエレクトロニクスがクルマをより安全にしているのである。クルマの台数は戦後一貫して増え続けているのにもかかわらず、最近は交通事故が減少している。これは、クルマの電子化が進んできたことも理由の一つだといえる。日本自動車整備振興会連合会によると、クルマの保有台数は1970年に1652万台、80年3733万台、90年5799万台、2000年7458万台、2010年7869万台、2013年7962万台とやや飽和傾向があるものの伸び続けてきた(参考資料1)。しかし、交通事故は13年連続減少してきた(図1)。交通事故による死者の数だと、連続減少は20年以上にも及ぶ。

画像: 図1 交通事故は減少傾向にある 出典:全日本交通安全協会 http://www.jtsa.or.jp/topics/T-239.html

図1 交通事故は減少傾向にある 出典:全日本交通安全協会 http://www.jtsa.or.jp/topics/T-239.html

最新のカーエレクトロニクスにおけるトレンドは、もっと安全に、もっと便利に、もっと快適に、という方向に向けて進化している。そのためのテクノロジーとして、車内ネットワーク(Ethernet)、衝突防止(情報認識技術)、サラウンドビューモニター、ドアミラーレス、セキュリティー対策、ヘッドアップディスプレー、音声認識・音声合成、ハイブリッド/EV、カーナビの高精度化、タイヤ圧監視システム、バックミラーの液晶化、ステア・バイ・ワイヤーなどがある。この中からいくつかを紹介しよう。
最近はやりの衝突防止技術としては、おおよそ2種類の方法がある。一つはカメラを使って先行車を検出・認識し、その物体がある程度大きくなる(近づく)と、ブレーキをかけるためのモーターにその旨を伝えるというもの。もう一つは、ミリ波と呼ばれる超高周波(77GHz帯など)の電波(レーダー)を飛ばし、金属製の物体(先行車)を検出・認識するという技術。電磁波(電波)は周波数が高くなるとレーザー光のように直線性が増すため、その反射を見ることで物体を検出できる。
カメラを使う方法は、先行車を映像として捉え、四角で囲み、その四角が大きくなると近づくという判断をするわけだが、その認識をソフトウエアで行っている。このため、コストはレーザーを使う方法よりも安い。しかし、そのソフト処理を行うための半導体プロセッサーに負担がかかり、検出速度はハードウエアで処理するレーダー技術よりは遅い。一般には高級車ではレーダーあるいは両方、小型車ではカメラ技術を使うことが多い。あくまでもコストとの兼ね合いになる。
もう一つ重要な技術として、サラウンドビューモニターがある。これを紹介する理由は、将来のドアミラーレスにもつながる技術だからである。このテクノロジーは、小さなカメラ4台を用い、映した映像を合成するが、その映像を見る視点をクルマの数メートル上に持ってくるというもの。4台のカメラからの画像・映像をつなぎ合わせるという作業を行い、さらに視点変換アルゴリズムを使うことで、まるで数メートル上から見たように合成し、グラフィック表示する。四つの画像であれば重複する部分を十分取れるため合成は容易になる。こういった処理をマイクロプロセッサーとグラフィックスプロセッサーを使って行う。
画像をつなぎ合わせる技術は、ドアミラーを取り払うこともできる。身体がドアミラーとぶつかることがよくあるが、これが例えばさいころ大程度の大きさになれば、その心配がない(図2)。今のドアミラーの位置に1立方cm程度で魚眼レンズのCMOSイメージセンサー(カメラ)を取り付ければ、前方から後方までぐるりと見ることができる。しかし魚眼レンズによる画像は歪んでいる。このため歪んだ画面を歪んだ座標に描いた画像と考え、歪んだ座標を直交座標(デカルト座標という)に変換し、左右のカメラ画像を合成すれば、バックミラーで見える風景以上に広い画面に早変わりする。

画像: 図2 ドアミラーをカメラに置き換える 出典:Tesla MotorsTesla Motors/Elon Musk reintventing the car: now pushing for mirrorless Tesla (2013/08/26)

図2 ドアミラーをカメラに置き換える
出典:Tesla MotorsTesla Motors/Elon Musk reintventing the car: now pushing for mirrorless Tesla (2013/08/26)

米国のベンチャー企業のジオセミコンダクター(GEO Semiconductor)社は魚眼レンズからの映像を直交座標でパノラマ映像に変換するプロセッサーチップを開発している。国内の萩原電気もプログラマブルな半導体であるFPGAを使って、変換回路を作り、「人とくるまのテクノロジー展」でデモ画像を見せた。これは魚眼レンズによる映像と、それを座標変換した映像を並べたもの。
クルマのエレクトロニクス化、IT化の進化はとどまらない。一部の高級車で始まっている音声認識がふんだんに使われるようになるだろう。クルマのハンドルから手を離さず、しかも「もっと近道はないか」、「近くにファミレスはないか」などの情報を入力する手段として声を使うのである。ドライバーから見えない所(死角)をなくしてしまうことも、イメージセンサーやディスプレー、半導体で可能になる。より安全に、より楽しく、事故の起きにくいクルマへと、カーエレクトロニクスの進化は続く。

<参考資料>
1.保有台数の出所は自動車検査登録情報協会

画像: 津田 建二(つだ けんじ) プロフィール: 国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長。1972年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。 同年日本電気入社、半導体デバイスの開発等に従事。1977年日経BP社(当時日経マグロウヒル社)入社、「日経エレクトロニクス」、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集長、シニアエディター、アジア部長、国際部長など歴任。 2002年10月リード・ビジネス・インフォメーション(株)入社、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。代表取締役にも就任。

津田 建二(つだ けんじ)
プロフィール:
国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長。1972年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。
同年日本電気入社、半導体デバイスの開発等に従事。1977年日経BP社(当時日経マグロウヒル社)入社、「日経エレクトロニクス」、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集長、シニアエディター、アジア部長、国際部長など歴任。
2002年10月リード・ビジネス・インフォメーション(株)入社、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。代表取締役にも就任。

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